水素貯蔵研究部門

研究紹介

燃料電池自動車(FCV)の利用をはじめとする水素エネルギー社会の実現には、軽量、コンパクトかつ安全に効率よく水素を貯蔵輸送する技術の確立が必要不可欠です。高圧水素ボンベや液体水素タンクでは分子状態の水素を貯蔵するのに対して、水素貯蔵材料では原子状態に解離した水素を「水素化物」として貯蔵するために、コンパクト(高い体積密度)に水素を貯蔵することができます(図1)。また、水素貯蔵材料では、高圧や極低温などの条件は不要であり、安全かつ経済的に水素を貯蔵できる利点もあります。このような高性能水素貯蔵材料を実現させることが燃料電池自動車等の本格普及、ひいては水素社会到来の鍵であるといっても過言ではありません。

図1 各種水素貯蔵方法の水素貯蔵密度の比較

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本研究部門においては、燃料電池自動車等の様々な水素の利用技術に最適な高性能水素貯蔵材料とその利用システムの開発を目指して、新規水素化物(主に金属・合金水素化物と錯体水素化物)の創製、水素貯蔵特性に密接に関係する原子構造、電子構造や原子拡散挙動等の解明、および実用化に向けた材料設計指針の構築等に鋭意取り込んでいます。主な研究内容は以下に示した通りです。


10質量%級錯体系水素貯蔵材料の開発

水素は体積エネルギー密度(ガソリンの約1/3000)が低いため、燃料電池自動車等の応用分野では限られた空間に多量の水素を貯蔵することが大きな課題です。そのため、高い密度で水素を蓄えることのできる高密度水素貯蔵材料の開発は必要不可欠です。多くの錯体水素化物M(M’Hn)m (Mは主にLi、Na、K、Mgなどのアルカリ・アルカリ土類元素群、M’はN、B、Alなどの元素群を表す)は、10質量%程度の水素を含有するため、燃料電池自動車用水素貯蔵材料(目標値は6質量%)の有力候補として世界的に注目されています。錯体水素化物のひとつであるLiBH4は図2に示す熱分解反応(右方向)に伴う水素放出、再結合反応(左方向)に伴う水素吸蔵により、13.8 質量%もの水素を可逆的に貯蔵することができます。しかしながら、すべての反応において構成原子の拡散および化学結合の組換えが必要となるため、反応温度が高く反応速度が遅いことがその実用化における大きな課題とされています。本研究では、これまで私達が確立した液相や固気相合成方法を用いて、新規錯体水素化物を創製し、水素放出・再吸蔵反応の過程およびそれに伴う構成原子の拡散挙動や結合状態の変化を明らかにすることによって、実用に向けた材料開発指針を提案するとともに、指針に基づく高性能(高水素貯蔵密度、優れた反応速度と耐久性等)水素貯蔵材料の開発を目指しています。

図2 錯体水素化物のひとつであるLiBH4の水素放出・再吸蔵反応の過程とその模式図

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ご案内

本研究部門は、九州大学の水素拠点の研究活動を担当しております。博士研究員・博士課程学生の受け入れも可能ですので、ご興味がある方は、お気軽にお問い合わせください。なお、産業界や行政からの受託・委託研究、あるいは、共同研究も積極的に実施します。

連絡先

九州大学 水素エネルギー国際研究センター 
               水素貯蔵研究部門 李 海文

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